109番水道の彼方へ消えて行ったホエルオーの影を追うようにして、チルタリスとその背に乗ったは空を駆けた。
 到着したのはカイナシティ。コンテスト会場も擁した海辺の街である。




8.フラグ




 フレンドリィショップ、ポケモンセンター、造船所や博物館、ポケモン大好きクラブ、そしてコンテスト会場。
 コトブキシティには及ばないものの、それなりの賑わいを見せる町の中を一通り回ったは、なぜか見つからないルビーを恨むようにして街外れまでやってきていた。一定のリズムで行き来を繰り返す波をぼんやりと眺めながら、彼は自分がホウエン地方にやってきた理由を考えてみる。

 崩れた石の洞窟。多発する地震。どことなく落ち着かないそぶりのポケモン達。

 ただの地殻変動として片づけられない何かがそこにあるというのか。疑問に思いつつも、は確かに見過ごせない違和感を感じている。けれども、その正体まではいまだに掴めていない。
 ただの生殺しじゃないか、と彼が砂浜を蹴るのとほぼ同時に、そう離れてもいない所に変わったデザインの赤い服を身にまとった三人組が降り立った。観光客とも普通のトレーナーとも違う不穏な気配にが思わず振り向くと、ちょうど位置的に真正面にいた女と目があった。
 奇妙な角のようなものがついた真っ赤なフードから、鋭く光を反射する黒髪と同じくらい純度の高い漆黒の瞳が覗いている。ばちっと音がしそうな勢いで見交わした瞳に彼は密かに驚いた。
 目的のためには手段を選ばない───というより、手段のためには目的を問わないとでも言いたげな、ある意味一途とも言えるようなどこまでも迷いのない凶暴な瞳。その迷いのなさの奥にが何がしかを見いだせそうになったとき、女の方がふいと視線を逸らしてしまった。
 逸らされてしまった瞳をが惜しんでいると(それが何故なのか、はまだ知らない)、不自然な女の動きに気づいた残り二人がを見やる。
 いぶかしげな目で油断なく彼を見据えながら、二人の男は女に向かって何事かを問いかけ、女はそれに対してただ首を振る。

 一瞬の後に交わり、そして逸らされた視線はみっつ。

 が動くより早く、三人組はすたすたとどこかへと歩み去ってしまった。
 無意識の内に構えていたらしいモンスターボールを弄びながら、彼はため息まじりに呟いた。

「……あれかぁ…?」












(なんとまあ、わかりやすい気配だ)