すさまじい波を伴ってまっすぐこちらを目指してくる何かに気づいて、ハギは己のキャモメを呼び寄せた。
何事かと身構えるハギの肩で、キャモメだけが脳天気に一声鳴いた。
彼と彼女と世界の事情
6.海上エンカウント
ここ最近、海に出ると奇妙な出来事ばかりだ。ついこの間は不思議な少年を拾ったし、今度はずいぶんと珍しいポケモンが人を伴ってハギに近づいてくる。
鮮やかな青を反射させてやってくるそれは、ホウエンでは見ることもないラプラス。その背に乗る青年と目が合って、ハギは思わずキャモメを迎えに遣わせてしまった。
「誰だか知らないが兄ちゃん、迷子かい」
「や、人を探してて────変な帽子をかぶった十歳くらいの男の子知らない?」
青年が言っているのは間違いなくこの間拾い上げた少年のことだろう。船の上から見下ろしながら、ハギは知ってるよとだけ返す。その言葉に青年は心底安心したように息を吐いたが、引き上げようと伸ばした腕はやんわりと拒否された。
長居をするつもりはないということか。活き活きとしたラプラスを残念そうに見やっていたら、青年が苦笑しながら探し人の行方を聞いてくる。
「ムロで下したな。このあたりだと、一番近い町なんでね」
「ムロ? ああ、海を挟めば近いか……あっちのほうだよな?」
大まかな位置を指さす青年に軽く頷いて、ハギは首を傾ける。
「乗りっぱなしじゃあそいつも疲れるだろう。乗ってくかい」
ほんの親切心から出た言葉だったが、青年は至極嬉しそうに笑った。その反応にてっきり乗ると思ったハギが身を乗り出すと、彼は静かに首を振る。
「……いや、急いでるからいいよ。ありがとう」
「そうかい、そいつぁ残念だ。俺はハギってんだが────兄ちゃんは?」
「俺は。なんかまた会いそうだなあ、ハギさん」
「やめてくれ、さん付けなんて気持ち悪くていけねえ」
そう言ってハギが首筋を掻くふりをすると、が笑った。彼はラプラスから落ちないよう巧くバランスを取りながらしばらく笑い続けて、同じように笑うハギを見てラプラスを軽く撫でる。勇気を振り絞ったハギがラプラスのことを尋ねようとしたタイミングに合わせてがくるりとその方向を変えた。
首だけで振り返り、彼は笑う。
「ありがとう、ハギ。助かったよ」
「こっちこそ珍しいもん見せてもらったぜ。また会おう」
「うん、またいつか」
ひらりと振った手のひらを最後に、もう彼は振り向かなかった。前────ムロの方向だけを見てラプラスと共に泳ぎ去っていく。
残念そうにそれを見つめるハギの肩で、キャモメが慰めるように鳴いた。
(Good-bye,see you again.)
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