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 奇妙な子供を拾ってから数週間。出会いこそ異常だったものの、拾ってきた子供はK.Kが思っていた以上によく働いた。実際のところ料理なんかはV・Bの方が上手いくらいだったし、帳簿の計算やなんかも彼自身がやるより子供に任せた方が早かったくらいだ。電卓を片手に恐ろしい速さで計算をこなしている無表情の奥に、初めてであったときの歪みが見えたような気がした。
 愛用の銃を手入れしながら、K.Kはふっと遠い目をした。
 家政婦でも雇ったつもりか、この俺が。

「それは何?」
「おまえ、気配消すの上手いな……」
「何のことだかわからないわ」

 数週間のうちにV・Bの口調からはたどたどしさが消え、年齢にそぐわない大人びた話し方だけが残った。
 ばらばらに分解された鉄の塊を眺めて、V・Bはわずかに目を細める。次に子供が何を言うかがありありと想像出来て、K.Kは思わず顔をしかめた。

「ねえ、それ、私にも教えて」
「ざけんなクソガキ。10年早え」
「年齢なんて些細なことにあなたがこだわるとは思ってなかったわ」
「……何のためにこんなことを覚えるんだよ」
「何のために、って、」

 壊せるかと言ったのはあなたでしょう、と、V・Bが怪訝そうに言う。この数週間で、K.Kは少女がどのくらいの能力を持っているのか測りきったつもりでいたが、それはどうやら間違いだったらしい。おそらくこの細切れに近い状態の鉄から、己の育て親が殺されたとき男が持っていた暴力を推測したのだろう。末恐ろしい女だとは思うが、K.KはV・Bが何者なのか、どこから来たのかを調べるつもりはなかった。感情のない瞳、年齢に不釣り合いな口調。それらすべてを暴いてしまえば、おそらく一介の殺し屋などでは太刀打ちできないような混沌が待っているに違いない。恐ろしい予感だった。

「あなたはそのために私を連れて来たのではなかったの」
「ああ、わかったわかった。もう勝手に見て覚えろ。俺は教えねえ」
「そうするわ。質問は許してほしいのだけど」
「好きにしろ」

 吐き捨てた返答を聞いていたのかいなかったのか、V・Bの目はすでにK.Kの手元から動こうとしない。部品同士の組み合わせを考えているのだろうか。諦め半分で作業を再開したK.Kに、少女は時折質問を投げかけた。発せられる言葉はどれも的確に要所のみを突いていて、この分なら3日もあれば銃の手入れはできるようになるだろうとK.Kはぼんやりと思った。

「人に向けてそれを握れば、壊せるのね」
「俺で試すなよ」
「それは私に路頭に迷えと言っているの?」

 そこまで愚かになったつもりはないわ。V・Bが呟く。ああそうですかと投げやりに返してK.Kは銃を組み立て始めた。
 固い金属音を立てて出来上がっていく暴力の形に少女が瞬く。

「人はそんなにも僅かな暴力で壊れてしまうのね」
「当てる場所の問題だ」
「あなたはそれを心得ているの?」
「そうじゃなきゃ仕事にならん」

 生返事を返したV・Bの瞳が読めない。K.Kは背筋があわだつのを感じた。
 恐ろしい、娘。

「皆、……………、……」
「あ?」
「なんでもない」









(皆が死ぬならあなたも死ぬのよね、と思ったの)