任務も終わり、学校もない。珍しく暇な時間のできたザ・チルドレンと皆本は、蕾見不二子の急な思いつきで彼女のプライベートルームにいた。プライベートルームといっても、バベル内にある会議室を彼女の好みに合わせて改造したただの休憩室だ。ただの────と形容するには、多少華美過ぎるところもあるが。
ともかく、その優雅な部屋で彼女たちが午後のおやつを楽しんでいたところに、は唐突に現れた。
ドアを叩きつけるような乱暴さで開けた彼女は、珍しく余裕のない表情をして部屋の中心で紅茶を飲む不二子に駆け寄った。驚きながらも落ち着いた動きで紅茶のカップを置いた不二子は、妹をいたわる姉のような声で問いかけた。
「? いったいどうしたの、」
「不二子さん────不二子さん、不二子さんっ、お願い、今すぐキスしてください!」
不二子の細い両腕にすがりついて、泣き叫ぶように放たれたその言葉に、その場にいた誰もが思わず目を点にする。不二子だけがその瞳に慈愛をたたえたままを見ていた。対する要も、不二子しか寄る辺がないとでも言うような切なげな顔で彼女を見ている。うっかりすると禁断の花園のような雰囲気を醸し出している二人を止めるように、皆本が恐る恐るに声をかけた。
「ええと、・・・要? 一体何があったんだい?」
「もう、もう無理なんです。お願いです、三日だけ。三日でいいから、何も考えなくていいように眠らせてください」
仕事も任務も、必要な分はすべて終わらせてきましたから。切羽詰まった声でが言う。そこで皆本とザ・チルドレンはようやく合点がいった。つまりは不二子のエナジードレインで昏倒させてほしいということだったらしい。
じっとを見つめていた不二子は、不意に彼女を強く抱きしめた。驚く皆本たちをよそに、少女は不二子の肩に顔を埋めて少しだけ泣いているようだった。
「いいわ、誰もあなたを害さないように、不二子が眠らせてあげる。は頑張ったわ。そろそろ限界だろうとも思っていたの」
「ごめんなさい、不二子さん・・・。次に起きたら、ちゃんとしますから」
「いいのよ、は気を張りすぎなんだもの。不二子さみしかったわ」
そうして微笑みあったあと、ごく自然に唇が重なった。皆本は慌ててザ・チルドレンたちに目隠ししようと手を伸ばしたが、それより早く葵がテレポートで自分ごと仲間を彼の手の届かないところに退避させている。はじめは興味津々といった面持ちで要と不二子の濃厚なキスシーンを眺めていたが、次第にその頬が赤く染まり、恥ずかしそうに目線を逸らしていく。
慌てて駆け寄った皆本が目隠しをすると同時に唇は離れ、力の抜けたが不二子の膝の上にくずおれた。どことなくやつれた顔で静かな寝息を立てる少女の色素の薄い髪をすきながら、不二子はチルドレンたちを抱えたままの皆本に笑いかけた。
「皆本君、オトナのお話しましょ。そのコたちを朧ちゃんに預けていらっしゃい」
「え、・・・あ、ハイ」
「・・・ばあちゃん、姉ちゃん大丈夫なの?」
「ウチらかてもう中学生やし、皆本はんに頼まんでもわかるで」
「私、賢木さんで遊んでくるわ」
状況が掴めないまま腕を緩めた皆本の懐から、ばらばらとザ・チルドレンの3人が歩み出る。心配そうな顔をして、意識のないを見る。「平気よ」と不二子が笑うのに安心したのか、葵と薫はテレポートでどこかへと消えて行った。残った紫穂はなぜか釈然としない顔でドアを開ける。一瞬だけ迷ったようなそぶりを見せて、目を白黒させる皆本に向かって一言だけ吐き捨てた。
「オトコってみんな馬鹿なのね」
09/10/18
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