いつもの風景

 ザ・チルドレンの定期検診。パソコンのモニターを見ながら手元のボードに数値を書き記していく皆本と、それを横でおちょくる紫穂と賢木、MRIに寝転がったままアダルト雑誌を読む薫と、それに呆れる葵。相変わらずの光景だ。
 そういえば、と水着を着た女体が全面に印刷された三つ折りポスターを引き出しながら薫が言う。
「賢木先生、ねえちゃんは?」
「任務に行ってるんじゃないか? そろそろ帰ってくるころだとは思うけどな」
「運用主任の癖にあいまいなのね」
「運用主任っつーのは名前だけってな」
 薫が寝ているMRIとは別の機械の調整をしながら賢木は肩をすくめた。返答に込められた感情やら意味やらを掴み損ねて子供たちが首を傾げたところで、検査室の扉がやや乱暴に開けられた。
「こーどねーむざさいれんすただいまきかんしましたぁーつかれたァー」
 彼女にしては珍しく荒れた口調で一息に言い放ち、はキャスター付きの椅子に腰かけていた賢木のところへ一直線に歩み寄った。  ザ・チルドレンのデータが詰まったファイルを持ったまま、賢木は近寄ってきたを見やる。
「どうした? 報告なら今回は俺じゃないだろ」
「ベッド貸してください。死にそうなんです」
「・・・おまえ、また無茶やったのか」
「言っておきますけど、今回はわたしの責任じゃないですよ」
はん、どこ行ってきたん?」
 好奇心丸だしの幼い声に、疲れ果てた顔で賢木と言いあっていたが振り返る。見れば、薫までもが起き上がってこちらを見ていた。好奇心と、混ぜられた少しの心配。手元のボードに何がしかを書き付けていた皆本も、何を思ったのかじっと彼女に視線を固定している。合計5人分の視線を受け止めて、は一分の隙もなく完璧に笑って見せた。
「ちょっと、場の流れ上仕方なく、ヤクザさんを一つ潰してきたの」
 いやあ、まさか機動隊と協力組織の両方の指揮を取る羽目になるとは思ってもみなかったよ。
 「場の流れって・・・」「ヤクザ?」「現場主任でもやったのかしら」「管理官たちも無理させるなあ」「誰だうちのにそんな任務回したのは」五人は五人でそれぞれ言いたいこともあったのだが、言動にそぐわない爽やかな笑顔にすべてを封じられてしまう。  沈黙に間が持たなくなったことに耐え切れなくなった薫が一言だけ言った。

「・・・ねえちゃん、強いんだね」



08/12/12

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