「そうね、そうよね綱吉。それはとても悲しいことだわ」

 切りそろえた髪を揺らしてが笑う。

「あなたはあたしの裏切りを知ってしまった」
「そう。だよ」
「あなたはあたしがスパイだということを知ってしまったんだもの」
「その通りだ、その通りだよ」

 様子がおかしいわ綱吉。が笑う。

「・・・夜が明けたら、ファミリー全員でここを襲撃するよ」
「それは暗にあたしに逃げろと言っているの? いいえ、だめよ綱吉。だめ」

 は悲しげにかぶりを振る。男はつらそうに視線を落とす。

「あなたがあたしの裏切りを知ったのなら、こうしてここで会ってはいけないのだし、もし“偶然”会ってしまったのならあなたはあたしを殺さなくてはいけないはずよ」
「ああ、そうだよ。俺はボスだから。でも、」
「だめよ、綱吉。それだけはあたしのためにもあなたのためにも許されないことだわ」

 女がまた首を振る。悲しそうな顔が笑顔と重なって、泣き笑いのような痛々しい顔になった。

「あなたはドン・ボンゴレ。誰よりも冷徹で誰よりも残酷で誰よりも非常でなくてはいけないの」
「でも、今の俺は沢田綱吉だ」

 そうね、知ってるわ。
 がさみしげに笑う。

「あなたはあたしの前ではいつだって綱吉だった。ボスだなんて呼ばせてもくれなかった」

 そして、そうであることを微塵も悟らせないようにしていた。
 悲しいわね、は静かに目を伏せた。

「でもあたし、あなたになら殺されてもいいの」
「何を」
「だってそうじゃないかしら」

 閉じたまぶたからひとすじ、涙。

「あたしはあなたを愛してるのだもの。愛する人に殺してもらえるのなら幸せだわ。あたしは笑って死んでゆけるわ」
「死なせない」

存外に強い声でツナが宣言する。

「俺は絶対に、君を死なせない」
「無理だわ」

 ぴしゃりと、否定する声は叩き付けるように。
 どこまでも冷たく、どこまでも尖っていて、そしてどこまでも悲しかった。

「あなたが殺せないのならほかの誰か、たとえばあのアルコバレーノが職務を果たすだけのこと。それならあたしはあなたがいいわ綱吉。あなたに殺されたいわ」
「でも、俺はそれがいやなんだ」
「じゃあ、どうするか決めて、綱吉」

 あたしを殺して仲間の元へ帰るか、
 あなたがここで自殺するか、
 あたしとここで心中するか、

「そう、選択肢はこれだけ。しかも、そのうちの二つは絶対に許されないものだわ」
「心中、する?」
「いいえしないわ。あなただってわかっているでしょう? ごめんなさい、さあ早く殺して頂戴」

 ツナは押し黙る。彼女の眼つきは鋭くなる一方で。

「はやく答えを出して、綱吉」




もう夜明けまで そんなに時間はないのだから







(死にたいだなんて浅ましいことは思わない、でも、最期にあなたの顔が見れるなら)