古泉一樹と言われてまず思い浮かぶのは、あのどこまでも他人の介入を許さない柔和な微笑みだ。次にやたらと耳あたりの良い声で紡がれる敬語。あと、些細なことでちょっと引くぐらい接近してくる。始めて彼を視認したとき、彼はキョンくんにものすごく近づいて何事かを話していたので、誰に対してもそうなのだと知るまで、わたしは彼のことをソッチの道の人だと思っていた。

 涼宮ハルヒという唯一神を介して私が知り合った「人あらざるもの」は多々いるけれど、彼はその中でも群を抜いて胡散くさい。いっそ演出なのかと見紛うほどだ。唯一神に気付かれないことを第一条件としているくせに、その所作のいちいちが怪しい。疑ってほしいのかと思ったが、唯一神はさっぱり気付く様子がないのでそれもないのだろう。と言うか、アレはいろいろと愚鈍だ。(と言うと、わたしは決まって上司に殴られるのだけれど)

 ────とにかく胡散くさくて、一番に警戒すべき人間。

 それが、SOS団なる奇妙な集団に半年間籍を置いたわたしの、古泉くんに対する結論だった。


       ***


さん、折り入ってお話があるのですが」

 なんだい古泉くん。珍しいじゃないか君がそんなにかしこまった顔をしてこの私に話だなんて。さてはあの唯一の話だね?

「いえ、涼宮さんのことではないんです」

 ほう? それはますます珍しいじゃあないか。まあそもそも唯一の話を私にすることがおかしいのだけれどね。最終的に私"たち"はアレを見放す予定でいるわけだし────ああ、失礼、君の『機関』はそうではなかったか。できれば報告しないでもらえると嬉しいな。さすがの私もあの『機関』を相手取ってただで済むとは思えないしね。で、何の話だい? 唯一の話でないのなら、一体なんだというのかな?

さん────さん、僕はあなたのことが好きです」

 そうか。私は嫌いだ。




踊るピエロ世界とワルツ