銃声、炎の臭い、血の臭い、痛み、痛み、悼み。 2カ月ほど前から姿を見ていない彼女が、 崩れ落ちながら燃え盛る炎の中で金色の髪を揺らし、 血まみれで笑う夢を見た。 けして返り血だけではないそれは確実に彼女の命を奪っているのに、それでも彼女はいつものように美しくうつくしく笑うのだ。周りにはだれもいない。ただがらがらと音を立てて崩れるその建物───ヒューは、そこが何処だか知らない───と舐めるように彼女以外のすべてを覆いつくしている炎だけがそこを支配している。 その夢があんまりにもリアルで悲しかったものだから、ヒューは思わず飛び起きた。 息が荒い、心臓の音がうるさい。胸をかきむしるようにして忙しない息を抑えていると、ぽたりとシーツにシミができた。じっとりと体中が汗ばんでいる。 あのやさしい金色と深く静かな青色を、ヒューはもう何年も見ていないような錯覚に陥っていた。今さっき見た夢も手伝って、もう逢えないのか、という絶望が襲う。 そっと、ほころぶように自分を呼ぶ声。暖かな笑みをにじませて自分を見る瞳。目覚めた瞬間、何かを耐えるように震えながら伸ばされる腕。そのどれもがひどく遠い。 ヴィー、と囁くように名を呼んで、ヒューは立ち上がる。 野暮ったいメガネの奥で笑う情報屋。探さなければ、聞かなければ。 携帯に残っていた最後のメールは1カ月と27日前、「愛してる」とただ一言。 (行かないで、往かないで、逝かないで、まだそこにいて)
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